卵子冷凍の費用対効果について
今回の記事は
- 研究の日本語訳のみ
記載しています。
先日HuffPostの記事(卵子冷凍について 知っておきたいこと HUFFPOSTから抜粋 )で紹介した内容に、とある研究が述べられていました。37歳で卵子冷凍をするのが一番経済的であるという研究です。
気になったので読んでみました。読んでみて、経済的側面から議論している記事は見たことがなかったので、興味深い研究だと思いました。
この研究は2015年6月のものです。
直訳すると意味不明になるので、私なりに読み解いて訳してみました。国語も英語も苦手なので、いい翻訳ができる方は助けてくださると幸いです。
理系の方ならご存知かと思いますが、研究の最初は概要、結論の要約で、実際に研究の詳細を読まないと意味不明な内容だと思うので、興味のある方は根気強く読み解いてくださいね。
Optimal timing for elective egg freezing
Tolga B. Messen, MD, Jennifer E, Mersereau, MD, Jennifer B. Kane, Ph.D, Anne Z. Steiner, MD
目的
この研究は25歳から40歳で卵子冷凍した人を対象に、どの年齢で意思決定をするのが一番効果的(費用対効果がいい)か調べています。
概要
卵子冷凍の費用対効果を調べるために意思決定ツリーのモデル(後述)に従って研究が行われています。冷凍した卵子は最初に意思決定した後3、5、7年で使われると想定しています。
被験者
25ー40歳で卵子冷凍をした人と、何もアクションを取らなかった人(冷凍しなかった人)
結果
37歳で卵子冷凍をするのが費用対効果が一番いいということでした。
37歳で卵子冷凍しなかった人が不妊治療後、出産の成功確率21.9%に対して37歳で卵子を冷凍したら出産の成功率は51.6%とこの年齢で出産率に一番差が出ました。
34歳までに卵子は冷凍しておくのが一番いいとされますが、(34歳までに冷凍した卵子から出産する成功率74%)、25−30歳までに冷凍していた場合、冷凍していなかった人に比べほとんど卵子冷凍の恩恵は見受けられませんでした。(出産成功率はたったの2.7ー7.1%上昇しただけです。もちろん冷凍していない人は不妊治療を経ている人もいるのと、計測期間はMAX7年です)
費用対効果を考えると37歳で冷凍するのが各出産時のコストが$28,759、他の年齢で冷凍するよりも経済的です。出産する前に結婚することを考慮した場合(この場合、男性側の精子が悪くなっている事も考えられます)、卵子冷凍の効果はほとんどみられませんでした。
結論
卵子冷凍は若い歳で冷凍するのが一番成功率が高いのは確かです。しかし37歳で冷凍するのが、何もアクションしなかった人に比べ一番費用対効果をあげています。
なんだって!?今まで見てきたグラフの内容と結果が一致しないではないか。と思いましたよね。
ちゃんとこの研究を読み解くためには、この研究の前提条件(後述)を理解する必要があります。
*これだけ読んでもよくわからないので、もと詳細を読みといてみましょう。
この研究の意思決定モデルは以下のように設定されています。
卵子冷凍をした人 vs していない人
卵子冷凍をした人⇨結婚するか否か⇨結婚した場合6ヶ月自然妊娠を試す⇨自然妊娠しなかった場合、冷凍してある卵子を使う
冷凍していない人⇨結婚するか否か⇨結婚した場合6ヶ月自然妊娠を試す⇨自然妊娠しなかった場合、従来の不妊治療を試みる
本来の研究から意思決定ツリーを引っ張ってきました。
人によっては結婚してから子供を作り始める人と、結婚を考慮しない人がいます。
そこで2つのモデルが検証されています
モデルA:結婚してから妊娠する・妊活する
モデルB:結婚したか否かに関わらず、ある年齢がきたら妊娠する・妊活する(匿名のドナー精子を使って妊娠するか、パートナーがいても結婚せずに妊娠する場合)
*これも面白いですね。年齢を考慮して、パートナーがいなくても結婚前に産む人もいるということ。もしくは、パートナーがいても結婚していないという状況。アメリカの研究っぽいですね。
情報源は
結婚調査、不妊治療状況などのデータはアメリカ国内の至るところから集められています。(国のデータ、アンケート調査のデータ、研究機関のデータ、医療機関のデータ等)詳しくは研究を参照してください。ちなみに、妊娠率は男性側の要因も考慮されています。
*ちなみに、いろんなデータから、それぞれの意思決定ツリーの事象の確率を計算しているので、データも不確かであれば、計算方法も記載されていないので、ちょっと怪しいな、と思ってしまいます。
費用の計算は
コストは2014年のデータの費用が用いられています。不妊治療費の詳細は見ていませんが、2019年現在で、卵子冷凍の費用は変わっているので、いくら節約できるかという数字は参考程度だな、と思いました。今の方が高くなっていますが、インフレもありますし、冷凍技術や冷凍庫自体も進歩しているので、実際の費用対効果は不明です。ちなみに、研究にもコスト指標が研究の途中で変わったため、計算に含まれていないコストもあると述べられています。
二人目、三人目を産む時のデータはデータベースから統計を取っています。
この研究では誤差を減らすために、意思決定時の年齢を基準に出産成功率と費用対効果を解析しています。(意思決定から3、5、7年後のそれぞれの統計比較ですね)
費用対効果の計算式
(費用対効果の指標)=(卵子冷凍費用ー冷凍しなかった人の不妊治療費)➗(卵子冷凍からの出産成功率ー冷凍しなかった時の出産成功率)
結論 モデルA
モデルA(結婚後に妊娠する場合、卵子冷凍の意思決定から7年間の期間で検証した場合)で、出産する確率に一番差が出たのは意思決定した年齢が35歳歳でした(つまり35歳で卵子冷凍した場合、7年以内に出産成功率が14.7%、冷凍しなかった場合、不妊治療を経ても9.1%)
25歳から30歳で卵子冷凍をするのが冷凍卵子から出産成功率が一番高いという事実はあるけれども、その歳で冷凍するか否かの意思決定した場合、モデルAでは(結婚を考慮した場合)出産成功率は、冷凍しなかった人に比べ3%未満の伸びしかみられませんでした。
*少し解説します。
これも納得できますね。例えばこの25歳から30歳で意思決定した場合ですが、検証期間はたったの7年間。つまり25歳で冷凍しなくても32歳までに子供を産めるか否か。冷凍している人もしていない人も、最初の6ヶ月のうちに自然妊娠している確率は高いですよね。
卵子を冷凍した、しないに関わらず、結婚を考慮した場合、40歳で卵子冷凍を決意した人の出産成功率は0%となりました。
モデルAでは35歳での卵子冷凍がもっとも費用対効果が大きいという結果になりましたが、実質的に7年間で検証した場合、35歳に意思決定した人の費用は、冷凍しなかった人よりも高くなりました。
この年齢で卵子冷凍した場合、1人産む費用は$12,910で、冷凍しなかった人は$2,111
で、冷凍卵子からもう一人追加で産む場合、費用はさらに高くなります。
卵子冷凍でもっとも費用対効果が悪かったのは25歳から30歳で冷凍した場合です。
結論 モデルB
モデルBでは結婚を考慮しない場合で、パートナーと結婚せずに出産、もしくは必要ならドナー精子を使って出産する場合で、モデルAとは全く違った結論が出ています。
モデルBで冷凍するか否かで一番差が出たのは意思決定年齢が37歳の時です。37歳で冷凍した場合、出産確率は51.6%、しなかった場合21.9%。
34歳までに卵子冷凍をしていた場合、出産成功確率は70%以上でした。
モデルBで7年間で検証した場合、卵子冷凍の費用対効果がもっとも大きかったのは37歳で意思決定した場合でした。この場合一人産むのに冷凍した場合$19,493、しなかった場合 $10,943
モデルBでもより若い年齢で卵子冷凍をすると一番コストが高くなっています。
*注意していただきたいのがモデルAの35歳の時のコストより冷凍してもしなくてもコストはだいぶ高くなっているということ!
グラフ
Y軸は横軸の年齢時の出産成功率を(つまり意思決定から7年後の歳の成功率)
X軸は意思決定時の年齢
OCとは卵子冷凍の医療用語でOocyte Cryopreservationのことで
△はNO OCなので卵子冷凍しなかった場合、
□は卵子冷凍をした場合。
赤線はモデルAで結婚してから妊娠
黒線はモデルBで結婚せずに妊娠した場合
*ものすごくわかりにくいグラフなので解説すると、
私は今32歳で今年、意思決定しました。(来月冷凍します)なので、32歳の所の成功率をみると、7年以内に結婚もして子供が産めている確率は30%くらいという事ですね。結婚を考慮しないと80%くらいの成功率で子供が産めます。
この研究の結論
*前提条件として最初にあげた意思決定ツリーが大きく関わっています。
30歳までに卵子冷凍しておくのが、その冷凍した卵子から出産できる確率が一番高いとはいえ、どちらのモデルでも32歳までに卵子冷凍する絶対的な効果は冷凍しなかった場合に比べたったの10%未満という結果になりました。
そして一番絶対的な効果が大きかったの場合はモデルBで37歳に卵子冷凍をした場合でした。しかし、費用対効果の面でみると、卵子冷凍がコスト削減に繋がるとは言えませんでした。
モデルAでは結婚することが前提となっており、結婚を望む女性はドナー精子を使うことを好まない場合が多く、かつ、結婚できる確率も低いため、出産確率の数字の伸びが悪くなっています。出産確率の伸びは結婚の確率に比例すると言っても過言ではありません。
結婚する確率は学歴が高くなるほど、都市に行くほど減少しています。
2011年には40%の母親が結婚していないというデータがあります。
以上から、モデルBの方が卵子冷凍のメリットを得られると言えます。
あるヨーロッパの研究では、40歳の場合、他の不妊治療よりも卵子冷凍の方が出産成功率が高くなりますが、費用も高くつくと報告されています。しかしこの研究では結婚のステータスは考慮されていません。
もしも費用を気にせず、出産確率を上げる事が目的であるなら、34歳までに卵子冷凍をすることです。34歳までに卵子冷凍をするのが、いかなる場合も一番出産成功率が高くなっています。
しかし、より効果が見られるのは、長期間で判断した場合です。つまり34歳までに冷凍したか、していないかを、3年、5年の期間で比べた場合、出産成功率に大差は見受けられないということです。
つまり、どういうこと!?
最終結論は、この研究の最後に述べられていることを太字にしましたが、費用を気にしないなら34歳までに卵子冷凍をしておく事が一番成功率が高くなるという事。コスト面から議論しているから話がものすごくややこしくなっていますが、子供を産めるか産めないかは最終的にはコストのお話ではないと思います。
そして、自分がいざ子供が欲しくなるタイミングが遅いほど冷凍しているかしていないかで成功率が別れるわけです。
そして、研究では述べられていないのですが、モデルBの結婚を考慮しない場合でも、31歳くらいから冷凍した場合としていない場合で出産成功率に開きが見え始めています。つまり、不妊治療を経ても冷凍卵子がある方が出産率は高くなっています。医学的な要素のみから考慮して、これは大事な事実ですよね。
今まで見てきた、何歳までに何個卵子があったら何人生めるかのグラフにはこの開きは見られませんでした。というのも30ー34歳が一括りだからです。
おさらい
読み方
- 年齢別で自分がA,B,C,Dのどこにいるか(グラフの中に書いてある、30−34とかが年齢層)
- 横軸が冷凍できた成熟した卵子の数で、縦軸が成功率
- 一人子供が欲しい場合、青色のグラフを参照。二人の欲しい人は赤色、三人は緑のグラフ
詳しくはこちら
このグラフのみからなら、34歳でも37歳でも殆どの成功率に変わりはないじゃないか、と思うのですが、大事なのは一回の冷凍のサイクルで、若いほどたくさんの卵子が一度に採取できるということを忘れずに。
このグラフは冷凍した個数に対しての成功率で、何回のサイクルで何個冷凍できるかについては述べていません。
今回紹介した研究では卵子を冷凍した人の冷凍平均個数などは述べられていませんが、30代前半でも差がで始めているというのは、知っておきたい結論です。
現実的に考えて32歳で彼氏もいないので、あと1、2年で結婚することはまずないということを前提に、私の場合は冷凍して置いて正解、という結論ですね。
もし彼氏いて、結婚手前なら冷凍する必要はなさそうですね。
そもそも卵子冷凍はコストの問題なのか?
そして、このブログを書きつつ、頭の隅にいつも考えていることがあって、それは卵子冷凍というアクションが何か変えてくれるかもしれないということ。
心理学の好きな人からは、人は変わろうと思わない限り変われないんだよって言われてしまいそうですが(私も心理学が大好きでよく心理の本を読んでいます)、これは自分から行動しているから影響は大きいのではないか、と。
パートナー探しを焦る気持ちが軽減されるのではないか、と。
もっと一人で有意義な時間を過ごせるようになるのではないか、と。
ちょっと話が脇にそれてしまいましたが、この研究が結婚の観点から、意思決定の観点から調査しているところがものすごく面白いと思って、紹介させていただきました。
言いにくい現実ではありますが、この研究ってまさに私の悩みを数字にしてくれたようなもの。
お金を掛ける価値があるのか。そして冷凍しても結婚して子供を産む機会に恵まれるのか。いつ冷凍するのが正しいのか。
この研究が全部数字にしてくれていました。この研究ものすごく頭いいなと思いました。グダグダ言ってないで数字出せとは、まさにこのこと。
そして、数字を突き付けられても、自分を現実に落とし込む事がなかなか難しい。
わかってはいるけれども、私はそんな37歳になってもまだ独身とか考えられないしーとか心の底で考えてみたり。
奥が深いですね!